平成24年3月(弥生)のおついたち

毎月1日とその前日限り、店頭にて販売

老いてこそ なほなつかしや 雛飾る  及川 貞

 四月になって、雛は飾る。我が家は旧暦で祭る。キューピーを抱いた私の隣に弟が座っている写真がある。ふと、この写真のシャッターをきる若かった両親を想ってみる。もう昔のこと。
 昨年、訪れた飛鳥寺で橘をしげしげと眺める。「右近の橘、左近の桜」と覚えて、右大臣、左大臣の隣に置いたもの。雛壇の人形も、道具も訳を知らない。「明りをつけましょ、ぼんぼりに…」もわからない。あられも菱餅も甘酒も口にしたことはない。「お母ちゃん、菱餅はどんな味なんじゃろう。あられを食べたい。」答えは同じ「うちには無いんじゃ。我慢で」
   
 葉をまとうお菓子は誰でも好き。椿餅、桜餅、蓬餅、柏餅、笹餅。常緑樹が大脳を刺激する。祖母と道端で蓬を摘む。「先だけをこうやって、摘むんで。」「そこはいけん、犬のおしっこがかかっとるで」すり鉢を両手で一生懸命押さえる。ふかした熱々のかたまりが入る。こねる。餡を包む。父はもう、座っている。「ええ色じゃ。ようできとる。」蓬の匂い、繊維は固い。これが美味しいとわかるには何年か、かかる。すりこぎについた濃い緑は春の色。

 先日、松木幸子さまからこんな可愛らしい絵と素敵なエッセイを頂きました。
情緒あふれる散文に、幼いころの情景が重なります。

 あの頃も今も、お節句に落ち着いてお雛様を飾る余裕もなく、もちろん甘酒やあられを食べながら娘たちとお手玉遊びをしてやる暇もなく、それでも何とか、ちらしずしとハマグリのお吸い物だけは毎年欠かさないようにがんばってまいりました。

 今月の「おついたち」は雅なおひなさまに飾りたくなるような可愛らしい食材を、ミニチュアにして上生でおつくりしてみました。下の段にも、ころりとしたおいしいものが詰まっておりますよ。

 まだまだ冷えが残ります。あたたかい甘酒で、春の宵をお楽しみください。

元気で生きる 主人 田口 恵美子
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