平成22年9月(長月)のおついたち

毎月1日とその前日限り、店頭にて販売

今年も大輪の菊が美しく咲く初秋を迎えました。
菊花を愛でる習慣は、奈良時代頃、健康と長寿を願う重陽の節句とともに中国からもたらされたといわれます。菊にちなんだ和歌を詠んだり、品評会を開いて美しさを競い合ったり…。王朝の貴族たちは、衣の裾や袂からちらりとのぞく裂(きれ)の色にたいそう気を配ったそうです。やがて、この季節にはこう、何々の儀式にはこうと、袷(あわせ)の表と裏、重ね着の外と内の配色に決まりができ、これが襲(かさね)の色目となり、たいてい草花の名がついています。
たとえば、春なら梅・柳・桜・山吹、夏なら卯の花・百合・菖蒲・朝顔・薔薇など。
どれも二つの色がよく照り映えるように組み合わされていて、今の時代の服や室内の配色にも参考になっています。
秋は萩・紅葉そして菊。菊の中にも白菊、移ろい菊、つぼみ菊、残り菊などいくつかの色目があります。白菊は表は白、裏は萌黄、すなわち黄緑。残り菊は表は黄、裏は白。残り菊の裏を白にしたのは、表の黄色をさびさびとさせるためでしょうか。
 「黄菊白菊其の他の名はなくもがな  服部嵐雪」
江戸時代に入ると、菊の品種改良がすすみ、さまざまの色の花が現れました。
しかし、黄菊と白菊の他はなくてもよい、この二つの色に菊は極まっていると、俳諧師は詠んでいます。

さて、今年の中秋の名月は、九月二十二日。この夜を中心に様々な観月の会が催されます。
花見が賑やかなのに較べて、観月はあくまでも静か。たとえ多人数で集まるにしても、花見では花の下で共に楽しむのが、観月ではひとりひとりの孤独をもって月に対する趣があります。
春の花の歌の代表が在原業平(ありわらのなりひら)の
「世の中にたえてさくらのなかりせば 春の心はのどけからまし」ならば、
月の歌の白眉は大江千里(おおえのちさと)
「月みればちゞにものこそかなしけれ わが身ひとつの秋にはあらねど」でしょう。
月こそ日本人の美意識の、秋の夜空にかかる鑑(かがみ)ともいえそうです。

今月のおついたちは、
中秋の芋名月なぞらえてさつまいもを使った蒸し羊羹を。
九月二十日の敬老の日に因んで、赤い御祝の座布団をイメージした煉切製の「敬老」。
そして、さびさびとした白菊を白、黄、緑の薯蕷饅頭製で。
上野寛永寺の五重の塔を照らす、煌々と冴やかに浮かぶ十五夜の景色を浮島でおつくりしてみました。

秋来ぬと 月にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる(藤原敏行)

今月もお元気で、「おついたち」をお楽しみください。

元気で生きる 主人 田口 恵美子
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